スキップしてメイン コンテンツに移動

ドゥンドゥンバの壁 ①

 「ドゥンドゥンバ」とは、ジャンベと一緒に演奏される筒太鼓のうち、
一番大きい太鼓を指す言葉である。(ちなみに小はケンケニ、中はサンバン)
 しかし、楽器以外にもリズム自体を指す事がある。
 ジャンベを初めて、1年くらいしたら一度くらいは耳にしたことはあるだろう、
この「ドゥンドゥンバ」というリズム。
 初心者〜中級者の前に立ちはだかる「壁」としてある感じが、
ギターで言うところの「Fのコードを押さえる」壁と似ている。

 人差し指だけをまっすぐ伸ばして、中指、薬指、小指で弦を押さえるなんて、
日常生活の中で、ほぼない指の形である。
だから「絶対無理!」って、初めは思う。
「手が小さめだから・・・」なんて言い訳もしてみるが、
自分より小さい手の人が容易にFを押さえているのを見たりもする。
そこで諦めずに練習して、何とかFの音が出せる様になると、
F♯も、GもG♯も、A、B、B♭、C、C♯も・・・つまり全ての音が、
その手の形をスライドさせれば出せる事に気がつく。 
 つまり、
楽器自体を諦めさせうるほど、越すのに苦労する壁だが、
超えた後に、音楽的世界がぐわーっと広がっていくところが、
ギターのFとドゥンドゥンバの似ている点である。

今回はそんなリズムの「ドゥンドゥンバ」のお話を少し。。
そもそもですが「ドゥンドゥンバ」とは、
西アフリカのギニア、ハマナ地方を中心に周辺で踊られる
マリンケ族の「男の世代間闘争」の為の伴奏曲。
昔は血を流すほどの戦いをしていたそうですが、
今では、首都コナクリの結婚式で毎日の様に叩かれ、女性も踊るポップな扱い。
ギニア中のみならず、西アフリカ周辺国でも人気リズムとなっています。
 その人気の秘密が「メドレーシステム」にあると思います。
先ほどから「ドゥンドゥンバ、ドゥンドゥンバ」言っていますが、
実は「ドゥンドゥンバ」と言う名前のリズム自体はありません。
「ドゥンドゥンバ」とは何十種類とあるリズムの総称の事。
例えば、dundungbe,bata,bolokonondo,takosaba,takonani.......と言う様に、
一つ一つに、違った名前が付いています。
なので全てのリズムを「ドゥンドゥンバ」と省略して言っていますが、
それは「ドゥンドゥンバファミリー」と言う意味合いで使っています。
「男の決闘」の色んなシーンにBGMをつける様に、
リズム一つ一つに意味があって、
踊りやステップ、リズムの尺の長さまで変化に富んでいます。
 数あるリズムが「ドゥンドゥンバファミリー」として称されるのは、
伝統的な意味合いはもちろんですが、音楽的にも共通点があります。

その共通点とは、
1・コール音(ジャンベのシグナル)=パタピパタパッ
2・ケンケニのリズム =・・K・KK
3・サンバンとドゥンドゥンの関係性。

の3点ではないかと考察されます。

1・コール音
 どの曲も「パタピパタパッ」と言うコール(シグナル)で始まる。
曲を始めるだけでなく、このコールはドゥンドゥンバ中に多用される。
普通コールは「何か」の為の合図として使われる。
「曲を始める」「ダンスの振りを変える」「ブレイク(ユニゾン)になる」
「曲を終える」とか、だから、迂闊にコール音を出すことはしない。
しかし、「ドゥンドゥンバ」ではソロ中にも関わらず、
突如このコール音が入ったりもする。
なのでコールといっても扱いは他の曲とちょっと違う。
 その証拠に、このコールで「ダンスを変えること」も「曲を終える」事も
出来ない。それらはまた別のフレーズとしてある。
2・ケンケニ
 そして、このコールの後にリズムが入るのだが、メトロノーム的役割の
ケンケニがいきなりオフビートで乗ってくるのである。
このオフビート感が「ドゥンドゥンバ」を壁と感じさせてしまう一番の要因。
 しかもフレーズ自体は、ジャンベの一番最初にならう伴奏パターンと同じ。
散々、そのフレーズをオンビート叩いた後だから、
余計にオフビートで聞く事が難しくなる。

  音楽を文章で説明することは難しいのは百も承知だが、
一応、ケンケニのフレーズをここに表現して説明しようと思う。

ケンケニ
         1・・2・・3・・4・・
           K     K K         K    K K
ジャンベ・伴奏1
         1・・2・・3・・4・・
      S    T  S        S     T  S              
            

これが、ケンケニとジャンベ・伴奏1を譜面に表したものである。
1、2、3、4と書かれたところがオンビート。(手拍子を打つところ)
「・・」で表現されているところが、オフビートとなります。
つまり、ジャンベ・伴奏1では、S(スラップ)の位置が、ずーとオンビートを
叩き続けています。
一方、ケンケニは、Kの位置が、ずーっと2つ目のオフビートを叩いています。
フレーズ自体は同じリズムなんだけど、拍子(視点)の捉え方が違います。
 「慣れ親しんだ捉え方を変える」事が、また難しいことの一つなのです。

例えば、外国に行って、左ハンドル、右側通行で車を運転して、
対向車が全て、自分に突っ込んでくるような恐怖に陥ってしまうのも、
日本で慣れた運転ルール(右ハンドル、左側通行)の感覚が、無意識に反応し、
右側車線にいること自体を、どこか不自然に感じて、頭とは裏腹に、
感覚が左車線に行こう行こうとしまうから。
 『いつもの感覚は、(似たような)新しい感覚が入ることを邪魔する』
のである。なので、
この場合、聞き慣れたフレーズを裏と捉えようとすることを一旦辞めてみる。
改めて、ケンケニを表すと、

ケンケニ
1・・2・・3・・4・・
   K     K K         K    K K
思い切って拍子(視点)を変えて、聞き方を変えてみる。
1・2・3・1・2・3・
   K     K  k        K     K  k
そうすると、リズムはワルツになってくる。
小学校頃のカスタネットで叩いた「ウンパッパッウンパッパッ」
そう聞いて、最後の小文字のkは後ろに来るおまけ音と捉え、
1・2・3・1・2・3・
ウンパッパぱウンパッパぱ
ケンケニのフレーズとなる。
 ケンケニもワルツに捉えれば、似た感覚という理由で引っ張られにくくなる。
しかしまあ、拍子を変えて捉えることも、簡単ではないかも知れません。

なので6/8拍子のオフビートというものを今一度考えてみましょう。
1・・2・・3・・4・・
   K     k K         K      k K
今度は視点はそのままに、二つ目のkを小文字にして、
小文字のkを消して大文字のKだけを聞いてみる。
 1・・2・・3・・4・・
      んっけんっけんっけんっけ 
そうすると
 1・・2・・3・・4・・
 んっはいーやいーやさっさ

阿波踊りや沖縄民謡なんかに出てくる「合いの手」の掛け声となる。

「合いの手」は落ち着こうとする歌を、持ち上げる働きがある。
実際ケンケニを叩くと、自分のベルもあったり、他の音もあったり
なかなかそんな風には聞こえないかも知れないけど、
声で「合いの手」を入れる時、人はオンビートがどこか?とは考えない。
何と無くかも知れないが、
「合いの手」は自分をオフビートと認識しながらではなく、
ただ「んっはいーやいーやさっさ」というフレーズを歌っている感覚に近い。

そうするとフレーズの持つ力で、自然とオフビートが強調されて
聞こえるようになってくる。
「歌えるものは叩ける」これはジャンベ界の常識である。

6/8拍子のオフビート感を掴むには、
「合いの手」の気持ちでいることが近道かも知れない。

こんな風に色んな感覚を駆使して、試行錯誤した結果、
ある時、僕もこのケンケニを自然に叩けるようになった。

ドゥンドゥンバファミリー(に限らず)のケンケニは、
何かと合わせよう(ズラそう)としながら叩くのではなく、
出来れば自らの声(フレーズ)にノリながら放つ方が良い。
(独りよがりじゃなく)
そうすると、ドゥンドゥンとサンバンがそのノリの上に、
会話するように乗ってきてくれる。
でもそのおしゃべりを、聞き入りすぎると、引っ張られてしまうことがある。
あくまでも、自分の声(フレーズ)を歌いながら、
二人の会話を、ちょっと高い位置から「うんうん」と聞いてあげる感じ。
口出しはしない。(年の離れた長男・長女的な気質ですね)
『一番小さい太鼓だけど、みんな俺(ケンケニ)の手の平で転がされてるだけ』
そう思えたら十分です。

少しと言いつつ、長くなったので、次回に続きます。



 











コメント

このブログの人気の投稿

ジャンベの叩き方〜音だし 手のひら編〜

ジャンベには基本の3つの音がある。 「ドン」「トン」「カン」 一つの打面だが低音、中音、高音と音質が変化する。 それに、ダイナミクス(音量の上げ下げ)や、微妙な倍音をわざと出したり、 ちょっとしたことで音は変わるから、 実際は3つの音だけでは無い。  しかしながら、1番大切な三つの音を先ずは出せる様にしよう。   ここから僕の感じた3つの音の出し方を書きます。 あくまでも個人的な見解なので、「そんな感じもあるんだ」くらいに読んで下さい。   立って叩く場合でも、座って叩く場合でも、打面がおへそからおへその少し下に 来る様にジャンベをセットする。 座って叩く場合は、ジャンベ下部の穴を塞がない様に、ジャンベの打面を 少し奥に傾けて、それを両膝の内側で支える様に座る。   肩の力を抜いて、ジャンベのふちに両手を置く。 この時、 ジャンベのふちのアールに合わせて 、自分の手を少し曲げ、フィットさせる。 頬杖付いたときの、手の形の様に、対象を包み込む感じです。 これが、基本の姿勢である。あくまでも 自分にとって自然な姿勢 でこれをキープします。 ドン/低音 /ベースの出し方 3つの音の中でも比較的出し易く、認識し易い音で、一言で言うと、 リムの内側、打面の中央辺りに腕の重さを乗せて、手のひら全体で叩く。 初めは、叩くというイメージよりも「腕を落とす」とイメージする。 例えば、手首に糸を巻いて、脱力した腕を吊り上げられた状態で、 誰かにその糸を、急に切られた様な感じ。 手のひらが皮にぶつかった瞬間に来る反発を素直に受けたら、 トランポリンの要領で、手のひらが上に跳ね上がる。 体重が乗れば乗るほど、落下スピードが速ければ速いほど、反発も大きくなる。 手のひらが当たった時、手のひらの中央は皮にはぶつかっていない。 でも、重心はそこ(手のひら中央)に持ってくる。 音は、太鼓下部の穴から抜けて来る感じ。 それがドンの音。 トン/中音/トニックの出し方。

アフリカ人的リズムの感じ方

  アフリカ人ジャンベ叩きと一緒に叩いたり、観たり体感したことのある人には、 分かるかと思うのだが、アフリカ人のリズムには、何か異質のエネルギーを感じる。   根源的で、野性的で、生命力そのものの美しさ、 それでいてユーモアまで感じるエネルギーを含んだリズムとでも言い表すべきか? 僕自身も色々な理由からジャンベを続けてこれたが、 「アフリカ人の様なフィーリングで叩きたい」 という思いが常にあった。 「一体何が、我ら日本人と違うのか?」と思いたって、アフリカ人の演奏を観察し、 時に同じ生活をする事で見えてきた違いは、 音量、スピード、熱量、前ノリ感、独特の間、ポリリズム感など、 挙げたら切りが無い。 が、その違いを一つ一つ理解して、日本人らしく、論理的かつ柔軟な感覚で アフリカンフィーリングを習得して行ったら良いと思い、 このblogで記録しながら共有してます。 まぁフィーリング(感覚)の話なので、習得には個々人の訓練と慣れが必要になってきます。   そんな今回は、 1番 簡単に アフリカ人フィーリングに近づける方法! 題して 「アフリカ人的リスムの感じ方」 。 それを一言で言うと、 「アフリカ人達は、リズムを最小限で捉えようとする」 と言うことになる。 「リスムを最小限?捉える?」となると思うので、ここで例を、 (B=ベース。T=トニック。S=スラップ。) KUKU (4/4) ジャンベ アコンパ ①は通常どおり、リズム譜にリズムを記したもの。 ②は日本人的リズムの捉え方。 B(ベース)をリズムの頭と捉えて「ドントトッ カッ」とリズムを出している。 この場合、8拍あるうちの、7拍分がリズムへの集中力となり、1拍が休憩となる。 ③はアフリカ人的リズムの捉え方。 S(スラップ)を頭と捉えて、「カッ ドントトッ」とリズムを出している。 この場合、リズムの集中力が6拍分、2拍が休憩となる。 同じリズムではあるが、捉え方によって、休憩できる拍が変わってくる。

ンゴニのすすめ

 今日はンゴニを皆さんにおすすめしたいと思います。 ンゴニの良さを語る前に、ンゴニの簡単な説明をしておく必要がありますね。  ンゴニとは西アフリカで演奏されている弦楽器の事で、直訳すると「ハープ」の事。 それを扱う、人間の種類によって、3種類に分類されています。  狩人の使う「ドンソンゴニ」    グリオ(ジェリ)の使う「ジェリンゴニ」  若者(誰でも)が使える「カマレンゴニ」。  アフリカの社会には、インドのカースト制とまでは行かないが、世襲制の職業がある。 音楽家や、鍛冶屋、狩人など、専門色が強くなればなるほど、現在まで残っています。 ドンソンゴニ(donso ngoni)  広大で乾燥した土地にあるアフリカでは、食べ物を持って来てくれる狩人(ドンソ)に 畏敬の念を抱いている。  彼らは、狩りをするだけでなく、医者であり、呪術師であり、音楽家でもある。 命を扱うドンソに、目には見えない力を人々が望んだのか? 命を扱うごとに、見えない力が芽生えてくるのか?  ドンソは見えない力を使って、自然に感謝し、人々を癒し、時に人を呪い、 歴史や自然の教えてくれた法則などを、人々に伝える。  その時、ドンソは猟銃をドンソンゴニに持ち替えて、語り、唄を歌い、大地を舞う。 ジェリンゴニ(djeli ngoni)  グリオやジェリと呼ばれるアフリカの世襲制のミュージシャンは現在、 グローバル化により世界中に飛び散り、各地でアフリカの文化を伝達していている。 彼らは、お父さんもおじいさんも、そのまたおじいさんもグリオであり、一昔前まで、 グリオは歩く図書館として、アフリカの大地を旅しながら、 各地に歴史や歌を届けていた。  そんなグリオ達が使っているンゴニがジェリンゴニである。  グリオによっては王様のお抱え音楽家として、王様が眠る為にコラという弦楽器を 弾いたり。バラフォン(木琴)や太鼓系など、家系によって扱う楽器も様々だ。  マリからガンビアまで、大河二ジェール沿いを中心にグリオの歩いた道と